『Always Listening』がお届けするインタビューシリーズ。「超越」をテーマとして、このキーワードに紐づく人物にフォーカス。創造、表現、探求、感性、そして、なにかに没頭したからこそ感じることができる超越的体験について語っていただく。

第1回目に登場するのは、真鍋大度氏(Rhizomatiks/Rhizomatiks Researchディレクター)。

Perfumeのライブ演出における技術面でのサポートや<リオ2016大会閉会式東京2020フラッグハンドオーバーセレモニー>の演出サポートなど、革新的なビジュアルを次々と世界に向けて発表してきた。また、真鍋氏は幼少期より音楽に触れる機会が多く、現在はアーティストとしてDJや楽曲制作も行っている。映像から音楽表現まで、真鍋氏のクリエイティビティを掻き立てるもの、そのなかに在る“超越”とはなにか?

真鍋大度が語る、音楽がもたらす創造の世界
Perfume x Technology presents Reframe NHK Hall
photo by Yosuke Kamiyama
真鍋大度が語る、音楽がもたらす創造の世界
Daito Manabe + Satoshi Horii “phaenomena” at Sónar Istanbul
©️photo by Digilogue

Interview Daito Manabe

――真鍋さんは映像演出をはじめとして幅広い分野でお仕事をされていますが、“自分の核となるものは音楽と数学”だとよくお話をされていますよね。音楽は真鍋さんにとって特別なものですか?

僕の家は祖父がオーディオマニアで、父親がミュージシャン、母親がシンセサイザーの音色制作の仕事をしていたので、音楽は常に身近にありました。ただ、小さい頃はそれがイヤな時期もあって、小学生の時に父親にMiles Davisを聴かされていましたが、正直よく分からないなあと思っていましたね(笑)。ピアノを習わされていて人前で演奏するのもイヤでしたし、どちらかというと音楽にはコンプレックスを持っていました。

――その真鍋少年が音楽にのめり込むようになったきっかけは何でしたか?

中学に入ってから、たまたま家でケーブルテレビが見られるようになったんです。そこでやっていたのがMTVの『YO! MTV Raps』という音楽番組で、それがきっかけでヒップホップやハウスとか、90年代頭に流行っていた海外の音楽にハマっていきました。当時だと、Public Enemy、Pete Rock &C.L.Smooth、Lord Finesse、Gang Starr、A Tribe Called Questなど、東海岸のヒップホップを特に好んで聴いていましたね。

――その頃はまさにMTV全盛の時代ですね。

そうですね。MTVにはすごく影響を受けました。ミュージック・ビデオも面白かったですし、中高生の頃はその影響で音楽にどっぷりはまっていました。渋谷のタワーレコードに通って、いらなくなった宣伝パネルを店員さんからもらって家に飾ったりしていました。

――音楽を始めたのも同時期ですか?

高校に入ってDJを始めました。トラックの作り方の勉強やビートの打ち込み、サンプリングをするうちに、ヒップホップの元ネタを探すようになり、そこからジャズを聴きはじめました。この頃から、家にあった両親が持っているレコードの価値に気づいたんです。

――両親がミュージシャンで楽器に触れる機会が多かったにも関わらず、真鍋さん自身が選んだのはDJで、好きなジャンルがヒップホップだったというのは面白いですね。

うちは父親がかなりファンキーで、中学の頃に趣味でギターを始めたらプロ目線の指導をし始めたり、「DJをやるなら大学を辞めてニューヨークに行って来い」と言いだしたりするようなタイプの人でした。そういう父親に対する音楽のコンプレックスがあって、ドラムを叩けなくてもドラムマシーンさえあればビートが作れる、楽器ができなくてもサンプリングをすれば音楽が作れる。それを網羅できるのがヒップホップで、僕のなかでより魅力を感じたのだと思います。

――学生時代から音楽活動をスタートして、大学卒業後も音楽をメインに仕事をしていくというプランはなかったのですか?

結局、音楽活動はだんだんと行き詰まってきてしまって。何しろ才能がなくて、PeteRockやDJ Premierに憧れてモノマネをしていただけでしたから(笑)。何事もモノマネだけでは限界がありました。同じ時期に大学で学んでいた数学も非常に抽象的なものばかりでしんどいなと思いはじめ、何か数学に対して面白いことはないかなと探していたときに、一冊の本に出会ったんです。それがIannis Xenakisの『音楽と建築』という本です。著者は現代音楽家であり建築家でもある人で、その本は代数学と確率論を使ってメロディのパターンや音像を作るという内容でした。音楽と建築を数学的な手法で作るという内容に興味を持って、それまでただのヒップホップDJだったのが、少しずつ今仕事にしているような分野に進みはじめました。

――自身の核となっていた音楽と数学の両方に行き詰まりを感じていたところ、その二つを融合する手法に出会ったことが今に繋がっているということですね。

そうですね。それをきっかけに何か形にできそうだと思って、研究室の先生にも相談しながらプログラムを組みはじめました。ただ、今ほどプログラムが簡単な環境ではなかったので、今なら1日で終わるような作業を1カ月かけてやっていました。それから、 Dumb Type(1984年に結成された京都発のアーティスト・パフォーマンス集団)や、池田亮司さんがやっていた音楽やパフォーマンスを見て、自分でも、数学的な要素をもったオーディオビジュアル表現を取り入れていったんです。

――そういった方向性が自分の進むべきキャリアになると確信した瞬間は何かありましたか?

大学の時に、実際に池田亮司さんの代わりに音楽を作る機会をもらえたのは大きかったですね。大学の先輩が池田さんとずっと仕事をしていて、000Studio(松川昌平)が映像を作って池田さんが音楽を作るという体制で、建築系のプロジェクトを行っていたんです。その中で池田さんの代わりに自分が音楽を作ることになり、池田さんの音楽を参考にしながらはじめてサラウンドのシステム構築と作曲を行いました。それが97年くらいで、Pro Toolsを買って空間的に音楽を作ることを始めたきっかけになりました。当時はPCを持ち込んでライブをすることがそこまで主流ではなかったのですが、自分はこの時からMacのデスクトップを持ち込んでライブをしていました。

――音を数学的に構築し映像として表現する、これが真鍋さんのクリエイティブにおける根底となっていますか?

そうですね。ただ、僕が映像の仕事や作品を作るときは、目ではなく“耳で作業”をする感覚なんです。あくまで音を耳で読みとって、それをどう映像にするか。映像の仕事でも、音楽がついてくる仕事がほとんどなので、常にオーディオとヴィジュアルはセットになっています。音楽って、本当は目をつぶって聴いてもいいモノじゃないですか。ただ、映像がつくことで、音楽そのものへの興味が広がることも事実だと思います。僕としては映像をつけることで、より音楽を楽しんでもらえるといいなと思っていますね。

真鍋大度が語る、音楽がもたらす創造の世界

――ライゾマティクスでは常に最新のテクノロジーを表現に落とし込む試みを行っていますが、音楽面で今のテクノロジーの進化をどう見ていますか?

ソフトウェアの進化は著しく、特にプラグインが賢くなっているなと感じますね。昔はレンジも狭くて音色も良くなかったのに、プラグインを一発かけるだけでかなりリッチな音像になります。また、音源やプリセットへのアクセスも簡単になり、そうなってくると、ファイル数が膨大になって探すのが大変だという問題が出てくるんですが、それも機械学習=AIで可視化して感覚的に探せる技術が出てきています。頭の中に浮かんだサンプルをすぐに出せるのも、技術の進化ですね。

――特にエレクトロニック・ミュージックの分野では、これからAIが音楽を作る時代になってくるのではないかという話もありますね。

そういう時代だからこそ、どんどん淘汰されて才能のある人が残るようになっていくんじゃないかと思います。AIは学習させないといけないので、こういう音楽や映像を作りたいというサンプルのパターンをいくつか覚えさせる必要があります。そうすれば、例えばAphex Twinのような複雑なビートを簡単に作れる。最終的には手作業で頑張って作ったビートと、AIが1秒で作ったビートが区別できないレベルにまでなっていくでしょう。ただ、そうなってきた場合、価値として残るのは誰が最初にやったのか?という部分だと思います。Aphex TwinやAutechreが出てきたときも、当時でいうとこんな音を作っている人は他に誰もいなかった。だからこそ今でも変わらず面白くて、価値のある音楽として残っていますよね。

――なるほど。AIが出て便利にはなっても、新しい表現が生まれる現場にはそれを活かす人の介在が必要不可欠だということですね。

あとは、正しい使い方をしているうちは、ただ便利になっていくだけだと思うんです。間違った使い方をした時にそれが新しい使い方になる。その間違った部分から、面白い表現というのが生まれると思います。例えば、ヒップホップのDJがターンテーブルを正しく使わずスクラッチをしたことが新しい表現になったわけじゃないですか。それでいうとAIと音楽の関係性についてはまだまだその域に達していないと感じますね。

――常識の域を超える、それが面白さを生みだすと。このインタビューのテーマも「超越」です。真鍋さんにとっての「超越」とは、なんでしょうか?

僕にとって常に大切にしているのは“一番はじめ”に誰もやっていないことをやる。
テクノロジーの進化にともない、現在のテクノロジーは旬が短い。今この瞬間に最新技術であったとしても、半年後には最新でなくなります。例えばAppleが新しいiPhoneを出しますよね。その中に搭載されている最新のテクノロジーは、そこに搭載されただけでもう“普通の技術”になってしまう。僕らの世界ではこういう事例がたくさんあるんです。ですので、新しい技術を作りだすことだけでなくコンテンツとして魅力的にするために時期を計算する必要があります。“一番はじめ”になるためには、その発表をいつにするのか?を逆算して作品を見せることも考えていますね。

――進化が早い分野だからこそ、進化の先をみて作っていかねばならない。

そうですね。最近でいうと、人のシルエットをAIに推定させる技術があるのですが、今年の4月に<コーチェラ>というフェスティバルでPerfumeのライブ演出に使いました。この技術は弊社の花井というエンジニアがライブ用に開発したものなのですが、徐々にiPhoneでも使われるくらい一般的なものになっています。一般的になって浸透する前に、この<コーチェラ>という場でこの技術を使うことが演出的にもインパクトが一番大きいと考えて採用しました。

Perfume – The Road to Coachella 2019

――真鍋さんがクリエイティブを追求するなかでみる世界、「超越的体験」について聞かせてください。なにかに没頭するからこそ得られる感覚というものを説明するとしたらなんでしょうか?

ひたすら没頭するということでいうと、やはり音楽を聴いている時ですね。たまに仕事の合間に、部屋を暗くして目をつぶったまま1時間くらい集中して音楽を聴き続けることがあるんです。とにかく集中して音楽を聴いていると目の前に風景が浮かんでくるんです。映像の仕事をしている人間でこういうことをいうのも何なんですが、頭のなかで想像を広げるときに映像は必要ないですね。オーディオビジュアルと、音だけの体験は全くの別物だと思っているので。音だけに没頭する時間は、脳がいつもより活性化される感覚になりますね。

――最後に、真鍋さんが新たに越えようとしていること、挑戦はなんでしょうか?

頭の中で描くイメージをどこまで忠実に取り出してビジュアル化できるか、ということでしょうか。

京都大学の神谷研究室が取り組んでいる「ブレインデコーディング」という技術を使わせてもらい、音楽を聴いた際に頭の中に浮かんだイメージを取り出して変換する様子を映像にした作品を制作しています。これまでは人工的に作成した共感覚や音と映像の同期をテーマにしていましたが、音と映像の関係の根源的な部分と機械学習を用いたアプローチに注目をすることでブレイクスルーを起こせるのではないかと思ってます。自分自身の脳活動を使うことにもチャレンジしていますが、データを取ることが肉体的にも精神的にも辛いので、何か良い結果が出るといいなと思っています。

my brain scan test 3

この手法が実用できるようになると、そのうち無声映画を観て頭に浮かんだ音楽を生成したり、ダンスが出来なくても音に合わせて振り付けを思い浮かべれば脳活動から振り付けを作ることができるとか、色々な活用法が生まれるはずです。着実に精度は上がってきているので、数年後にはマスターピースとして形にしたいですね。

――プロジェクトの実現、楽しみにしています。ありがとうございました。

真鍋大度が語る、音楽がもたらす創造の世界

Words:Akihiro Aoyama
Photos:Akinori Ito