質の高さを追求し、技術と美しさにこだわり続けるものづくりから生まれたオーディオテクニカ(以下、AT)の製品。そのオーディオ製品は、世界各国のアーティストが愛用しています。ここでは、アーティストの音作りの現場にフォーカスし、その音作りの背景からどのようにAT製品が使われているかを紹介していきます。それぞれのアーティストやエンジニアがこだわるポイントや、創造性を発揮している制作現場が描かれたAT製品のライナーノーツよりシリーズ連載としてお届けします。

第1回目はBjork(ビョーク)。

ビョークが2007年にリリースしたアルバム『Volta』のライナーノーツより、グラミー賞受賞歴を持つエンジニア・ミキサーのジミー・ダグラスとビョークのレコーディングでのエピソード、AT製品とエンジニアのストーリーをご紹介します。

“イノセンス”ビョーク

エンジニア/ミキサー:ジミー・ダグラス
プロデューサー:ビョーク、ティンバランド、ネイト・”ダンジャ” ・ヒルズ
パーカッション、サンプリング等:ティンバランド、ネイト・”ダンジャ” ・ヒルズ
ヴォーカル:ビョーク

ティンバランド、ダンジャとのコラボレーションで生まれた世界観

常に高いレベルの表現力と実験的なアプローチで音楽を制作し続けるビョークは、現代の最前衛のアーティストである。それゆえに2007年のアルバム『Volta』で、部分的に ティンバランド(および彼の度々のコラボレーターであるダンジャ)との共同制作が発表された時、誰もが疑問に思ったはずだ。

ティンバランドは、2007年にはジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)やネリー・ファータド(Nelly Furtado)らとのコラボでポップチャートのトップに君臨し、全米のラジオやダンスフロアを賑わせていた真っ只中だった。しかしながらアルバム『Volta』での共作は、彼がポップ界に由緒あるとはいえ、芸術性に於いても決してつまらない出来栄えではなかった。しっかり耳を傾けるリスナーたちにとってティンバランドのプロダクションは芸術的なタッチや実験的要素を備えていたし、ビョークとの連携は理に適ったものだった。

くっきりと全体像が見えたのは、アフリカンリズムやインダストリアルなどの豊かなテクスチャーが多層に重なったサウンドのアルバムがリリースされてからのこと。アルバムからシングルカットされた、ティンバランドおよびダンジャとの共作3曲のうちの“Innocence”は、アルバムの中でも特に際立った1曲である。アルバムは2008年度のグラミー賞でベスト・オルタナティブ・アルバムとしてノミネートされるまでに至った。

ティンバランドとダンジャのタッグとなれば、そこには必ずと言っていいほど馴染み深い人間がいる。グラミー賞受賞歴を持つエンジニア・ミキサーのジミー・ダグラスだ。(彼と仕事をしてきたアーティストはファレル・ウィリアムス、ジョン・レジェンド、ジャスティン・ティンバーレイク、ジェイ・Z、アリーヤ、 ミッシー・エリオット、ローリング・ストーンズ、レニー・クラヴィッツなどなど)「当時は、もはやティンバランドとダンジャと一緒にやるのなら、俺もセットで付いてくる、ってぐらい恒例だった」ダグラスはそう言って笑う。「3人がデュラン・デュランとの仕事をしている頃で、ビョークとのセッションはちょうどその最中にやる流れになった。彼女がどれだけクリエイティブか知ってたからわくわくしたね」

即興的なパフォーマンスをAT4060でキャッチする

AT4060

ダグラスとプロデューサー陣はニューヨークのマンハッタン・センター・スタジオで、全くの白紙からのセッションを開始した。「多くの場合、アーティストが率先して舵取りをするから、自分は彼らの目標や要望に沿って手を貸す」とダグラス。「でもこの時、彼女は事前になにも(曲や歌詞など)書いてきたりしてなかったんじゃないかな。コントロールルームでティンバランドとダンジャがアドリブでビートをつくっていた。するとビョークは興奮してきて『マイクをちょうだい』と言った。自分がコントロールルームで最も頼りにしているマイクは “Audio-Technica AT4060 Condenser Tube Microphone”。この素晴らしいマイクを彼女の前にセッティングしてあげた。すると彼らのつくっていたビートに乗せて自由に歌い始めた。とても自然に、湧き起こったかのようにね。完成した曲の歌の大部分は、彼女がその時にその場で即興でつくったものなんだ。僕らの目の前で、彼女は頭の中で作曲していた。感動的でとてもビョークらしい瞬間だったね。そういった創造力がアーティストを貫く時、その場でしっかりとらえるのが自分の役目なんだ。AT4060 を準備バッチリの状態で置いておけたのが本当によかったよ。このマイクはいつも最高の瞬間の傍らにあるんだ」

アーティストを支える立場としての役割についてダグラスはさらに強調する。「経験に乏しいエンジニアだったら、その場の展開に対して快く思わなかったかもしれない。『ねぇ ビョーク、これをトラックとして録音するなら、ちゃんとしたイコライザーやモニタリング等のあるヴォーカルブースに入ってよ』ってな具合にね。でも、そんな暇はないってわかってた。だから彼女はその場で、コントロールルームの中で歌うことになった。もちろんチャンネルへのブリードを最小限に留める努力はしたけど、彼女みたいなレベルのクリエイティブなアーティストと作業をする際には、そういった問題は二の次なんだ。自分の役目はアーティストの創造力を円滑にレコードへと落とし込むこと。その場その瞬間に求められることをやってのけて流れに逆らわないことさ。だって、ファンがレコードを手にした時、エンジニアがどういうふうにヴォーカルのサウンドに貢献したかとか、ミックスをどうやったかなんかを聴こうとしてるわけじゃない。みんなビョークが何をしたかを聴きたいんだから。むしろエンジニアなんてまったく重要な存在じゃないんだ」

しっかり聴くことへのご褒美

リスナーたちに向けてダグラスは、聴覚をフルに傾けることを勧める。「この曲は高品質のヘッドホンで聴くと最高だよ。リラックスした雰囲気で、音質のニュアンスを楽しめるよう集中すれば、様々な細やかな動きが聴こえてくるさ。トラックにも、そしてそのリズムへの対比としてのビョークのヴォーカルにも。歌声を溶け込ませたり、かと思うと抜け出してきたり、っていうのは彼女にしかできない独特のスキルで、じっくり聴こうとするリスナーへの彼女からのご褒美でもあるんだ」

Björk – Innocence