世界の音楽ニュースから気になる情報をピックアップしていくシリーズ特集。「世界で一番音楽を聴いている国」のニュースより、その国で実際にどんな音楽が聴かれているのかに着目!音楽時事と共にその国の人気プレイリストをご紹介します。シリーズ第2回目の今回は、インド!

南アジアの大国インドは、長い歴史のなかでさまざまな民族が混ざりあい、そこから生まれた文化も多種多様。中でも“歌って踊る”インド映画は世界的なブームにもなり、映画の中で登場する色鮮やかな衣装や、エキゾチックな音楽が印象的です。2019年10月に発表された国際レコード産業連盟(IFPI)のレポート『Music Listening 2019』によると、1週間に音楽を聴いている時間の世界平均が18時間であるのに対し、インドでは平均19.1時間と上回り、メキシコの次に音楽を聴いている時間が長いことが分かりました。

このレポートでは21カ国34,000人の音楽リスナーを対象に調査を行い、各国の音楽リスナーがどんな音楽を聴いているのか?視聴環境や利用するデバイスから分析したリスナーの動向結果を発表。

ポップスやロックなどが世界の主流なチャートを占める中、インドでは一体どのような音楽が聴かれているのでしょうか?Spotifyのプレイリストからチェックしてみましょう!まずは再生回数の多い楽曲のランキング「インドトップ50」 より、上位3曲をピックアップ(2019年12月3日時点)。

インドトップ50

再生回数ランキング第1位

Filhall/B Praak, Akshay Kumar & Nupur Sanon

第1位は、パンジャーブ・ミュージック(インド北西部からパキスタン北東部にまたがる地域、パンジャーブ地方の音楽)の第一線で活躍するシンガーB Praakによる“Filhall”。このMVには、「ハリウッド」を捩り「ボリウッド」と呼ばれるインド映画界のトップスター俳優Akshay Kumar(アクシャイ・クマール)と、超人気女優Kriti Sanon(クリティ・サノン)の妹であるNupur Sanon(ヌペル・サノン)が主演。

MVは、YouTubeにアップロードされてから24時間で1,500万回再生を突破し、インド音楽の中で最も早く1億回再生を記録!現在の再生回数は約3億回を越えており、インド音楽界では歴史的な1曲となりました。この楽曲はMVのストーリーで抒情的に演じられている通り、ままならぬ恋に翻弄される2人について歌っています。歌詞全体において“今のところは、私は他の誰かといるけれど、あなたと一緒になりたいと願っている”というメッセージが繰り返されています。

再生回数ランキング第2位

Ghungroo/Arijit Singh, Shilpa Rao

第2位には、ボリウッド界で最も成功しているプレイバックシンガー(映画で使われる歌を事前にレコーディングする歌手)のArijit Singh(アリジット・シン)と、Shilpa Rao(シルパ・ラオ)による軽快なデュエット・ソング“Ghungroo”がランクイン。2019年に公開され本年のインド映画興行収入第1位を記録した『War』のサウンドトラックに収録されています。
またこのMVには、映画の主演を務める俳優のHrithik Roshan(リティク・ローシャン)と女優のVaani Kapoor(ヴァーニー・カプール)が登場し、彼らが披露したダンスが話題に。SNSでこのダンスを真似て踊る動画がたくさんアップされ大ブームとなったそう。「Ghungroo」とはベリーダンスの衣装で有名な複数の鈴がついたアンクレットのこと。「このアンクレットが落ちるまで踊ろう……」という歌詞は、まさにインドらしい表現になっています。

再生回数ランキング第3位

Tum Hi Aana/Payal Dev, Jubin Nautiyal

第3位にランクインしているのは、プレイバックシンガーのPayal Dev(パヤル・デヴ)とJubin Nautiyal(ジュビン・ナウティヤル)が歌う“Tum Hi Aana”。2019年に公開されたロマンチック・アクション映画『Marjaavaan』のサウンドトラックに収録されており、MVには映画に主演するRiteish Deshmukh(リテーシュ・デーシュムク)、Sidharth Malhotra(シッダールト・マルホートラ)らが登場します。映画のタイトル『Marjaavaan』は直訳すると「あなたのためになら死んでもいい」。そしてこの楽曲タイトル“Tum Hi Aana”は「戻ってきて」を意味し、劇中で起きる男女の別れ、その切ない気持ちを代弁するような1曲となっています。

以上、インドトップ50より上位3曲をご紹介しました。映画で使われている楽曲が根強い人気を誇り、またMVには映画の主演俳優たちが出演している点が特徴的です。

次に、インドのSNSで今話題の楽曲ランキング「インドバイラルトップ50」をチェックしてみましょう!(2019年12月3日時点)

インドバイラルトップ50

バイラルチャート第1位

Yellow Hearts/Ant Saunders

バイラルチャートのトップを飾るのは“Yellow Hearts”。この楽曲は、米国のシンガーソングライターAnt Saundersが高校の卒業式の日にリリースしたもの。どぎまぎした少年の心を綴るキャッチーな1曲で、はじめにTikTokから火がつき2019年11月のSpotifyバイラルチャートグローバルランキングでトップに。Spotifyでも多くのプレイリストに収録されています。また、この楽曲は彼の3枚目のシングルで、Arista Recordsと契約に至るきっかけとなりました。現在Ant Saundersは初のアルバムを製作中とのことです。

バイラルチャート第2位

ROXANNE/Arizona Zervas

第2位には、アメリカ・メリーランド州出身のラッパーArizona Zervasによる楽曲“ROXANNE”がランクイン。パーティー好きでわがままな女の子に翻弄される男性が、その未練を皮肉たっぷりにリリックに落としています。この楽曲はTikTokのトレンドに入り、アメリカのSpotifyバイラルチャートで一気に注目されました。高校生の頃からキャリアをスタートした彼は、この楽曲で大ブレイクしたにも関わらず今でもインディーズとして活動を続けています。

バイラルチャート第3位

Falling/Trevor Daniel

第3位にランクインするのは、アメリカ・テキサス州ヒューストンを拠点に活動するシンガーソングライターTrevor Danielの“Falling”。 2018年にリリースされましたが、“ROXANNE”やメキシコ編でご紹介したTONES AND Iの“DANCE MONKEY”のように、TikTokで火がつき、SNSで徐々に話題となったようです。また、バイラルチャート第2位の“ROXANNE”と同様にアメリカのバイラルチャートでも上位にランクインしています。

以上、インドのバイラルチャートより上位3曲をご紹介しました。

トップチャートではボリウッド、インド映画と深い結びつきがあった一方、バイラルチャートでは他国と同じようにTikTokやSNSの世界的な影響が強く反映されていることが分かります。

最後に、インドのタイムリーな音楽情報をピックアップ。

まずは音楽フェスの情報から。インド西部のゴアで、12月末に<Sunburn Festival>が開催されます。このフェスはインドで最大級。今年はThe ChainsmokersやDJ SNAKEなど世界的に人気の高いエレクトロニック・ダンス・ミュージック系のアーティストが集結。トップチャートにランクインしている楽曲のMVを見れば分かる通り、インドにおいて“踊り”は非常に重要な要素であるはず。フェスでどんな踊りを見ることができるのか、とても気になりますね。

また、今年12月には、U2がツアー公演<The Joshua Tree Tour 2019>のファイナルをインド(ムンバイ)で行いました。それに先駆けU2は、インドが世界に誇る作曲家A.R.Rahman(A.R.ラフマーン)による新曲“Ahimsa”をリリース。タイトルの「Ahimsa」は、サンスクリット語で「非暴力」を意味します。U2の思想を巨匠A.R. Rahmanが楽曲に。このコラボレーションにより、U2にとって核となるメッセージが世に放たれた1曲となりました。

そして、昨今再び人気が高まっているインド映画。『バーフバリ』シリーズ(2017年)を筆頭に、良作が次々と日本でも公開されヒットしています。最近の作品で注目なのは、『ガリーボーイ』(2019)。 インドで活躍するアーティストNaezy(ネイジー)の実話をもとに、スラムで生まれ育った青年がラップとの出会いによって人生を一変させる姿を描いた作品です。

日本でも話題となった映画といえば、ディズニーのアニメーション映画『アラジン』の実写版。2019年に公開され世界的ヒットとなりました。アニメと同じく、映画に出てくるお城はタージ・マハルをモデルにしており、ランプの魔神ジーニー役をウィル・スミスが演じ、“青いウィル・スミス”のキーワードがネット上で盛り上がったのも記憶に新しいですね。

「世界で一番音楽を聴いている国」インドの音楽事情、いかがでしたか?次回は同じく「世界で一番音楽を聴いている国」より韓国の音楽事情をお届けします。お楽しみに!

出典:IFPI(国際レコード産業連盟)