音がつなぐ「ひと・もの・こと」――人の営み、文化の中で発生し存在する様々な音。

音は、衣食住のさまざまなものと結びつき、体験に彩りを与え、その時々を特別なものにしてくれる。ここでは、人がつなぐ音の世界にフォーカスし、その人物ならではの「音」についてのエピソードをプレイリストとともに紹介。音との関わり方、あるいはインスピレーションとなる音など、人と音の結びつきについて、さまざまな世界をシリーズ形式で伝えていく。

記念すべき1回目は「音×フェスティバル」。

現在、世界中で日夜開催されている音楽フェスティバル。今や音楽業界の基幹産業とも言えるフェスは、社会的な背景に呼応する形で、年々変化を遂げている。そこにあるトレンドや背景を読み解くことは、音楽そのものと、音楽を通した社会への深い理解に繋がるはずだ。

そこで話をうかがったのは、日本国内の音楽フェス情報サイト「Festival Life」を運営し、『THE WORLD FESTIVAL GUIDE 海外の音楽フェス完全ガイド』の著作を持つフェスジャーナリストの津田昌太朗さん。連載第一回目の今回は、「世界にメッセージを投げかける女性アーティストたち」というキーワードのもと、フェスにおける女性の活躍について語ってもらった。

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Interview Tsuda Shotaro

女性アーティストと世界のフェス事情

――今回、「世界のフェスから見えること」というテーマで、津田さんから「世界にメッセージを投げかける女性アーティストたち」というキーワードをいただきました。まずはその理由から教えてください。

2019年の世界の音楽フェス事情を知る上で、最も顕著だったのが女性の活躍でした。数年前まで音楽フェスは男性が優勢の文化だったんですが、近年になって女性アーティストの活躍が著しくなってきています。例えば、世界最大のフェスとして知られているアメリカの<Coachella>(以下、<コーチェラ>)では、今年のヘッドライナーをアリアナ・グランデが務めました。毎年ヘッドライナーとして3組のアーティストが出演する<コーチェラ>では、2017年にレディー・ガガがヘッドライナーを務めるまで、ビョークしか女性アーティストのヘッドライナー経験がなかったんです。17年以降は2018年にビヨンセ、19年にアリアナ・グランデと、毎年必ず女性アーティストがヘッドライナーに選ばれるようになっています。この変化はフェスの世界的な潮流を知る上で、とても象徴的だと思いますね。

――2018年のグラミー賞で女性のノミネートが少ないことが批判されたりと、ここ数年、ジェンダー格差は音楽業界全体で盛んに議論される問題となっていますね。

象徴的な動きとして、「Keychange」というヨーロッパ主導のキャンペーンが2018年に生まれています。これは2022年までに音楽フェスのジェンダーバランスを50:50にしようという活動で、現在のところ世界各地のフェス250以上が賛同して署名しています。このジェンダーバランス50:50を実現しようという動きは、例えば今夏開催された<あいちトリエンナーレ2019>でも採用されるなど、アート・フェスなどには以前からあった国際的動向なのですが、それが音楽フェスにも顕著に反映され始めたのが2019年でした。

――ジェンダーに関わるトピックスは、これまでにどのような問題提起が行われてきたのでしょうか?

イギリスに<Wireless Festival>というヒップホップ系のフェスがあるんですが、2018年のラインナップに女性が少なすぎると、リリー・アレンが抗議したことがありました。それを示すために、彼女はSNS上でラインナップから男性アーティストを消したポスターを出したんですね。そうすると、女性の名前はほとんどなくてラインナップが空白だらけになってしまった。そうした問題提起や批判は、例えばビョークなどの女性アーティストも発信していて、大きな話題を集めています。

――音楽フェスにおけるジェンダーバランスは、今どの程度実現されているのでしょうか?

昨年には、アイスランドの<Iceland Airwaves>というフェスがいち早く「Keychange」に対応して話題となりました。また、今年に入ると、スペイン最大級のフェスである<Primavera Festival(以下、プリマヴェーラ)>がジェンダーバランスを50:50に実現したラインナップを打ち出して、「The New Normal=新しい普通を作る」というテーマのもとでデザイン等もすべて統一した形で開催されました。参加アーティストも、FKA Twigsやエリカ・バドゥ(Erykah Badu)といったジェンダー・トピックスに対してカッティングエッジな表現を行っているラインナップが印象的なものになっていましたね。

――実際に今年の<プリマヴェーラ>に足を運んでみて、現場の雰囲気はいかがでしたか?

開催前には「ラインナップが弱い」「女性アーティスト優遇のせいで観たいアーティストが入っていない」など、SNS上で賛否があったのですが、現場に行ってみると割とすんなり受け入れられている印象でした。むしろ、主催者がそういったメッセージを発信しているからこそ、女性アーティストもステージ上のMCでジェンダーについて触れることもありました。例えば、ジャネール・モネイ(Janelle Monae)。彼女は普段そこまでMCで多くを語るタイプではないですが、この日のMCでは「女性はもちろん、GBTQAコミュニティ、 黒人、移民、障害を持った人々へ捧げる」といったメッセージを発信していた。<プリマヴェーラ>が打ち出した、性別や国籍にとらわれず何かを表現するという「New Normal」というコンセプトとマッチして、より深いメッセージを受け取る形でショーを観ることができましたね。あと会場のいろいろな場所でも「New Normal」とデザインされたロゴのブースや物販などもありましたよ。

――単にフェスに出演している意識でなく、そのコンセプトに共感しているアーティストが多いのですね。

そうですね。今回、<プリマヴェーラ>はLAをはじめ、他のエリアにも進出することを発表したんです。こういった思想を持ったフェスが世界進出していくのはさらなる楽しみですね。アーティストはもちろん、こういうメッセージを持ったイベントやフェスにこそ、現代の人々は反応して熱狂していくのではないかと思います。フェス=楽しい音楽イベントとしての単なる“コト消費”ではなく、どういったものに自分が参加するのか、そこに自分のアイデンティティや思想を重ねられるかといった“イミ消費”がフェスでも大切なポイントになるだろうと感じました。

マイノリティ側は優遇を望んでいるのではなく、構造的な格差の是正と平等を望んでいる

――女性ならではのメッセージ性という点で印象的だったアーティストは他にいますか?

例えば、先頃「Truth Hurts」という楽曲が全米一位になったリゾ(Lizzo)は今を象徴する存在だと思います。彼女はかなり大柄な女性なんですが、ありのままの自分を愛そうというポジティブなメッセージで多くのファンの心を掴んでいるんですね。太っていても痩せていても関係なく、今の自分が最高にイケていて、そのままで素晴らしいんだという。彼女は<プリマヴェーラ>にも出ていましたし、今年は世界中のフェスに多数出演していてかなりの人気でした。

――「ボディ・ポジティブ」と言われるムーヴメントは、ファッション業界でもよく話題になっていますね。

そうですね。他にも、<FUJI ROCK FESTIVAL>(以下、<フジロック>)に出演して日本でも話題になったステラ・ドネリー(Stella Donnelly)も、そうした流れを象徴するアーティストの1人だと言えます。彼女は一見すると可愛らしいシンガーソングライターといった感じなのですが、男性にセクハラされた経験を歌にしていたりと、その表現の中には社会的なメッセージが込められている。そうしたメッセージ性の強いアーティストはフェスのMCで長く話す傾向があるんですが、その理由の一つはメッセージを拡散しやすいから。すでにそれらのメッセージを理解している自分のファンだけでなく、フェスのステージには様々な人が見に来ますから、より多くの人に自分の作品に込めた思いを知ってもらえるんですね。

また、ジェンダー格差ではないですが、今年アメリカで話題になったものに<AfroFuture Fest>というフェスがありました。このフェスは、白人観客の入場料を黒人や非白人の2倍にすると発表したところ、白人だけでなく黒人からも批判を受けて、その方針を撤回することになりました。マイノリティ側はただの優遇を望んでいるのではなく、構造的な格差の是正と平等を望んでいるんだということがよく分かる、象徴的なニュースでしたね。

――冒頭でもおっしゃっていたように、世界的なフェスのトレンドを牽引しているのは<コーチェラ>だと思います。ジェンダー問題に限らず、近年の<コーチェラ>をどう見ていますか?

今のアメリカでは、アーティストがメッセージを発信する場として、グラミー賞の授賞式、スーパーボウルのハーフタイムショーと並んで重要なのが、<コーチェラ>のヘッドライナーのステージだと思います。例えば、2017年のレディー・ガガは、ビヨンセが妊娠で降板したことによる代打でヘッドライナーとなりましたが、そのステージで新曲の「The Cure」を披露して同時にストリーミングサービスで配信を開始させたのも話題になりました。また、翌2017年のビヨンセは一年かけてステージを作り上げて、今年ライヴ・アルバムとしてリリースしたり、Netflixでドキュメンタリーとして公開したりと、コーチェラのパフォーマンスを多角的な作品にしています。また、<コーチェラ>は4月に開催されるため、<コーチェラ>でのパフォーマンスの良し悪しが他のフェスでのアーティストのポジションに影響を与えることも多々あります。

――今年の<コーチェラ>で象徴的だと感じたアーティストは誰でしたか?

やはりビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)ですね。観客が走って前に詰め掛けて、押しつぶされそうになるステージを久しぶりに体験しました。彼女は女性としてのメッセージを特別に発信しているわけではないですが、ドラマ『13の理由』に楽曲が採用されたり、ツアーで若者に選挙参加を呼びかけるキャンペーンを行ったりすることで、確実に若者の間でオピニオンリーダー的な存在になってきています。<コーチェラ>では最初小さめのステージに登場する予定だったのですが、あまりの人気に2番目に大きいステージへと格上げとなり、それでも入りきれないほどの観客で溢れ返っている状態でした。

――ビリー・アイリッシュはイギリス最大級のフェス<Glastonbury Festival>(以下、<グラストンベリー>)にも出演していましたね。

<コーチェラ>での人気を受けて、主催者のエミリー・イーヴィスが「彼女の出演ステージを変更します」と発言して、実際に<グラストンベリー>初出演で二番目に大きいステージに登場しました。この秋以降はフェスでもヘッドライナークラスにまでなっていて、11月にメキシコで開催される<Corona Capital>というフェスでは、ストロークスと並んでヘッドライナーを務めることが決まっています。ビリー・アイリッシュは2018年の<Summer Sonic>で来日していましたが、わずか一年でこれほどの社会現象になったのが10代の女性だというのは、とても象徴的だと思いますね。

フェスが動くことによって世の中が変わり得る、社会的な装置になりつつある

――フェスは、そうした社会現象がドラスティックに反映される場にもなっているということですね。

特にここ数年で、フェスに行くことで社会が分かるようになったという実感があります。ジェンダーの問題もそうですし、人種や国籍の多様化といった事柄についてもそうです。例えば、今年の<コーチェラ>には韓国からブラックピンク(BLACKPINK)、日本からPerfumeが参加していて、日本でも話題になりましたが、それも多国籍化を進めていこうというアティチュードの表れでしょう。彼女達以外にも、近年の<コーチェラ>ではJ・バルヴィン(J-Balvin)らラテン系アーティストの参加が増えています。アメリカにはアジア系もいればヒスパニック系もいて、多様な人種が住んでいるからこそ、それぞれが楽しめるような場を用意するのが健全なんだという考え方になっているんです。これから更に時代が進めば、社会的な問題が最も早く解決される場所が音楽フェスということにまでなっていくかもしれません。

――それらの変化に呼応して、日本の状況はどうなっていますか?

<プリマヴェーラ>が打ち出した「The New Normal」というコンセプトにはジェンダー平等と並んでもう一つの軸があって、それが<コーチェラ>の変化にも通じる、国籍や人種の壁を無くしていこうという動きでした。そこで、今年は日本からも少年ナイフ、水曜日のカンパネラ、CHAIといったアーティストが<プリマヴェーラ>のラインナップに加わっていたんですね。中でも、CHAIは世界的な女性による表現の潮流と共振するメッセージを投げかけています。美しいって何ですか? カワイイって何ですか? 見た目じゃないでしょ、っていう。日本国内では変化を実感しづらいかもしれませんが、世界に羽ばたいているアーティストの中にはそうしたメッセージを発信している人もたくさんいて、言語や国籍に関係なく評価されるようになってきているとは感じます。

――国内のフェスに関してはどうでしょうか?

日本ではまだそういった意味で大きな動きは見えにくいですが、もう少しすれば国内のフェスにも目に見えた変化がやってくるはずです。いろいろなフェスの主催者と話をすると、そうした問題意識を持っている人は多いんです。ただ、ジェンダーバランス50:50にしようと言ってしまうのは簡単でも、実際に実現するのは難しい。アーティストのスケジュールや作品リリースの問題など、フェスの運営には色んな関係が絡んできますから。それでも、そこの意識について話している主催者は多いので、今後変わってくるんじゃないかとは思いますね。実際に、今年の<フジロック>は明らかに女性の出演者が多かったですし、女性のシーア(Sia)がヘッドライナーを務めたのはビョーク以来2人目でした。世界的に見て、音楽フェスはただの娯楽ではなく、メッセージを発信する場所として機能しはじめています。フェスが動くことによって世の中が変わりえる、社会的な装置になりつつある。その流れは、遅かれ早かれ日本のフェス事情にも変化を及ぼしていくはずです。

Text & interview by Akihiro Aoyama
Photo by Masato Yokoyama

津田昌太朗

Festival Life代表/ THE WORLD FESTIVAL GUIDE著者

世界最大級の音楽フェス「グラストンベリー」に参加したことがきっかけで、イギリスに移住し、海外フェスを横断する「Festival Junkie」プロジェクトをスタート。現在は拠点を東京に移し、日本最大級の音楽フェス情報サイト「Festival Life」を運営しながら、世界中のフェスを巡っている。著書『THE WORLD FESTIVAL GUIDE』(いろは出版)。ワタナベエンターテインメント所属。