1999年、ニューヨーク(以下NY)の名門大学の寮の一室ではじまったレコードショップ「Turntable Lab(以下TTL)」。同じ大学に通う「スケボー・音楽・デザイン好き」の3人組によって、狭い部屋で1台の厚いパソコンにて、オンラインショップとして始まった。

同オンラインショップもその2年後にオープンした実店舗(Turntable Lab、同名)も、今日まで健在。「明日NYに行くから、回しに(DJしに)行っていい?」と海の向こうからもDJがふらりと訪れて回していく、という気軽な溜まり場だ。

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

DJもDJになりたい人も、みんなやって来る

1999年のオンラインショップ立ち上げの頃から、3人が目指した店づくりは「DJたちのためにある」こと。2001年にマンハッタンのロウワーイーストサイドに開いた実店舗と連動しながら今日までの20年、ローカルのDJから海外のDJまでが足繁く、あるいは、時々思い出しては足を向ける店だ。レコードショップにはDJたちが店内ギグをするターンテーブルも設置されている。

もともとは純粋なバイナル(レコード)屋として始まったTTL、そのレコードのキュレーションについては「DJ的な使われ方を意識している」と、Chris Klassen(以下Chris)。TTLの初期から、創始した3人と共に運営に関わってきた人物。現在は実店舗のストアマネージャーだ。

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」
Chris Klassen
What analogue means to you?(あなたにとって、アナログとは?)

“Truest representation of what that sound is. Like a beautiful photograph.”
“音ってなんなのか”。それを、最も純粋に表現できるもの。美しい写真のようにね。”

ヒップホップ、ファンク、ソウル、ディスコ、ジャズ、ロックなど、NYには古くから幅広い音楽のシーンがあり、にわとりたまごの話になりそうだが、それゆえにNYのDJシーンにも幅広いジャンルのシーンが築かれてきた。「それを体現するようなキュレーションをしたレコードを置いてきたんだ」とは、新旧問わず幅広く「DJたちが価値を感じる1枚、かけたくなる1枚」をとり揃えてきた自負。初めての1枚を買ったのはTTLだと思い返すNYのローカルのDJたちは少なくない。

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

近年は、DJ関連の最新機器までを一式揃え、質の高いものだけを集めた機器屋としても評判だ。「ヘッドホン、DJミキサー、ターンテーブルにしても、僕たちが実際に信じられるモノしかこの店では取り扱っていない。安くてすぐ壊れるモノを売るなんてことはしない」。さらに、オンラインでは初心者向けのコンテンツも展開するなど、「DJをやってみたい人」たちにとっての“最初の店”として気軽に来られるように工夫している。DJたちのための店、には(未来の)もちゃんと含まれているから、「ターンテーブルって、どうセットするんですか」という質問にも丁寧に答えてくれる。

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

とりわけここ数年で、「TTLにくる客には、だいぶいろんな人が混じるようになったよ」とChris。Spotifyやストリーミングサービスで様々な音楽を縦横無尽に聴く世代が、「実際に手に取れる音楽」を求めてTTLにやって来る。「若い子たちって、いろんな種類の音楽を聞くようになったじゃん。だからここに来てレコードを見ていく時も、ジャンルをまんべんなく見ていってるなって気がする。初めてレコードを買うような人もたくさん来るようになったしね」。

店にやって来る人が広がり、彼らが求める音楽が広がれば、キュレートするレコードの幅も広げた。例えば、アフリカンファンクや日本のポップス。矢野顕子の『ごはんができたよ』の笑顔を発見。

「レコード屋って、“わかっている人たちが来る”っていう、なんとなくちょっとお高くとまっているような印象が昔からあるでしょ? 僕らはそういった雰囲気にはしたくないんだ」。そういえば、「俺を含めて、来る人皆を平等に扱う店だから好きだ」って、著名なDJたちもTTLをお気に入りのスポットとしてあげていたっけ。

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

大人になったTTL、緩めの周波数で変わりながら続くレコード屋

今では、海を越えてTTLにやって来るお客もいる。「手数料、送料とかが面倒で、こっちまで飛んできてレコードを買っていくなんて人も来るようになった」。海の向こうのDJたちは、こんなふうにも訪れる。「“明日からNYにいるんだけど、ちょっとDJしていっていい?”って直前で連絡が入って。それで店内ギグをしていく」。ローカルから海外まで、様々なDJたちが店内で回す「ミニDJセット」もTTLの魅力のひとつだ。

現在は毎週金曜日に、NYのローカルDJたちによるDJイベント<Live at the Lab>を開催している。海外からの大物DJが「TTLでDJセットをしていきたい」と連絡を入れ、回していくこともよくあるという。「最近だと、ジャイルス・ピーターソン(Brownswood Recordingsの主催者)が来ていたよ」

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

これまでの20年、TTLで働いてきたDJや音楽プロデューサーや、時々思い出したようにやってくる昔からの常連もいて、“TTL繋がりの音楽関係者”たちのネットワークが 築かれてきた。TTLの成長につれて少しずつ薄れてはいるが、周波数を緩く合わせていくような感じで、途切れずに繋がっている。昔ほど頻繁には会わないけれど、互いにとって利益のあるビジネスの話もして、気が向いたら昔の遊びのように楽曲を作ってみる。創業者の3人のうち1人は、自分が大学時代に聴いていたような“レコード化されていないレアな音源の限定レコード化”にも力を入れているという。曰く「発売する度にめちゃくちゃ人気で、毎回ソッコー売り切れ!」

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

店そのものの雰囲気も変わった。当時は、創始した3人のライフスタイルや興味そのものがTTLだった。「音楽やスケボー好きの若者たちが集う」雰囲気だった当時に比べて、今は大人の雰囲気になってきた、と話す。最近はレコード用のフレームや、プレーヤーを置く台、スタンドを作る家具メーカーと提携して、TTLらしい「音とライフスタイル」のあり方にも力を入れはじめているそうだ。

「今のTTLは、暖かくて、居心地がよくて、親しみやすい。そして、時がたっても古くならない、Blue Noteのアルバムカバーのような。僕らが大人になったことを象徴しているみたいだ」

1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」
Turntable Labのスタッフたち。

Turntable Lab

84 E 10th St, New York, NY 10003

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1999年、NYC・大学寮の一室で始まったレコードショップの現在。すべてのDJに開かれた店「Turntable Lab」

Photos:Kohei Kawashima
Interview:Kaz Hamaguchi
Text&Edit:HEAPS